韓国書籍紹介など

読書ノートなど。翻訳もこつこつ出版していきたい。

李珍景『マルクスはかく語りき』の一部分

この本は李珍景が霊媒になってマルクスが対話しているという形式(!)の本ですが、ちょっと引用紹介してみます。今後、韓国書籍の引用紹介的なことをちょくちょく挙げていこうと考えています。

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マルクス「曖昧とした考えだけど、最近わたしがいるところに上がってきた方たちの話を聞きながら確信しました。その中の一人が、日本の三里塚というところで生きていた若い友人なのですが、成田空港建設のせいで暮らしていた地から追い出され、保証金を拒否し、10年にわたって熾烈に闘ったといいます。結局は力によって闘いぬくことができなくなり、首をつって自殺したといいます。また別の一人は、韓国の労働者ですが、暮らしていた地に高圧送電塔を建てるといって押し入ってきた人々に抗議して焼身したといいます。」

 

李「ああ、新聞で読んだことがありますよ、そのおじいさんの話を。日本の友人の話は『ぼくの村の話』という漫画で見たことがあります。」

 

マルクス「エンクロージャーの時期のイギリスにおいても、土地を奪われて地主のヤクザたちが家に火をつけるや、そのままそこで燃え死ぬことを選択した老人たちもいました。命さえも投げ出すこのような行動の底には、引っ越しのするための保証金で充分な都市人たちとしては決して理解できないような生が、「自然」との関係が前提になっているんです。」

 

李「であるならば、社会革命とはたんに生産関係を変えて生産力発展を目指すのではなく、生産関係とともに生産力と呼ばれる自然と人間のあいだの関係を変えることだと言わねばならないでしょうか?」

 

マルクス「もちろんです。生産様式の変革とは生産関係のみならず、言葉そのままの生産の様式を変えることであり、生産力と命名された関係を変えることでなければなりません。自然をたんに開発と征服の対象として設定する関係、開発のための費用や、さらには毀損された環境を復旧する費用によって自然の「価値」を測る関係を変えなければならないのです。」

 

李「あっ、それは労働のみが価値を生産するという労働価値論とはとても違った話ですね。ついにあなたまでも労働価値論を放棄されるということですか?」

 

マルクス「ハハハ、そうなりますか?労働価値論を認めることがマルクス主義かどうかをわけることと同一視していた時期があったでしょう。それは労働価値論批判を通してマルクス主義を批判しようとしたブルジョワ経済学者たちのおかげだと言わねばなりません。労働価値論をもっとも強く主張したのは、わたしではなくリカードでしたね。スミスは労働を唯一の価値尺度として提示し、リカードはそれを労働のみが価値を生産するという考え方へと押し進めました。労働価値論がマルクス主義と同一視されうるならば、リカードリカード主義者たちが、より忠実なマルクス主義者であると言わねばなりませんね。『資本論』1巻を丁寧に読むならば、わたしが労働価値論を論理的に「完成」させると同時に、それの二律背反をあらわにし「批判」していることを理解できるでしょう。あるいは『資本論』3巻で差額地代に対して書いている部分を読まれれば、労働のみではなく、土地、そして別の「有用性」を産出してくれる自然が価値を生産するということを理解できるでしょう。」(李珍景『マルクスはかく語りき』クリエ、2015、228-230頁)

書誌情報は以下。https://www.aladin.co.kr/shop/wproduct.aspx?ItemId=53645159