廉想渉「除夜」の道徳・貞操批判
廉想渉「除夜」(1922)は力強い言葉が連続的にでてくる小説で、読めば読むほど味わいがあるが、その中の一文を紹介したい。
「いわゆる道徳という桎梏は、一人の男子に対してのみ一生涯を奴隷的奉仕に捧げねばならないという条文を、貞操の美だとか、情操の崇高だとかいう美しい衣にかくして、繊弱な女性に対して君臨する。さらに破行的に、女性に対してのみ厳酷だ。しかしいざ男子に対しても同一な要求をするとしたら、それは愚直であるがその実は虚偽に満足する盲従の徒として受け取られるであろう。感情が敏活で理知が明哲な男女に対し、美しい全生涯を代償なく犠牲に捧げよというのは、暴君のギロチンだ。おなじ顔を、24時間だけ見つめ合って座っているだけでも、頭痛が生じないというのは、むしろ愚鈍の極致であるだろうが、一生涯を黒髪が白髪になるまで見つめて座っていろというのは死刑宣告よりもどれほどマシであるというのだろうか。」(「除夜」『廉想渉全集』9巻、民音社、74頁)