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【日本語訳】民間資本学生寄宿舎の裏話

『延世』92号、2012年夏号より




民間資本学生寄宿舎の裏話

民間資本寄宿舎は高い。「高いけど、よい」という人もいるし、「よいけども、高い」という人もいる。「高いけど、よいのだから大丈夫だ」あるいは「よいんだけど高すぎて負担が大きい」の論争はさておき、気になってしかたない。高い寄宿舎費はどこへ行くのか?

民間資本寄宿舎とは「民間業者の資金を誘致して建築物を建て、一定の期間の中で資金を返還そいていくという「民間資本誘致」方式で建てられた寄宿舎」のことだ。私立大で最初の民間資金寄宿舎は建国大学のクールハウスだ。2005年2月、建国大学は民間資本寄宿舎建設のために金融会社と事業協約を締結し、建築資金を集めるために発行したファンドは一日で300億ウォンを集め、「大成功」をした。経済日刊紙はこぞって「大学施設投資に「金の風」が吹く」、「隙間産業として目立つ寄宿舎」などの記事を載せ、資本の大学入場を祝った。



クールな寄宿舎、寄宿舎費はクールに出せないよ

2006年夏、「新概念キャンパス住居環境造成」というキャッチのもとに建国大学の寄宿舎クールハウスが開館した。「ホテル型寄宿舎」を標榜したクールハウスは、オンドル完備の上に「duoback」の椅子、シーメンスのベットなど、最高級家具および冷蔵庫が備え付けられた「クールな」スペックを持っていた。しかし寄宿舎に暮らす立場からみると、寄宿舎費を見て「クール」になることはできない。一学期あたり、一人部屋の場合、基本が300万ウォンを超える。一月に50万ウォンをこえる寄宿舎費は、大学の外のオフィステルの一月の家賃と変わらない。民間資本寄宿舎を建てるためには寄宿舎を建てる民間企業を設立しなくてはらない。もちろんこの民間企業は現実には存在せず、書類上にのみ存在する会社だ。建築費を出す金融会社と、建物を建てる建設会社が参与し、「特殊目的会社」として民間業者をつくる。大学と建築会社、金融会社が共同代表になる。共同代表は分業を通して、それぞれのすべき仕事をする。金融会社が一定の金利で金を貸し出せば、建築会社はその金で建物を立てる。

工事中には民間業者が建物の主人だが、建物が完成すれば民間業者は寄付の形で大学に所有権を渡す。しかし事業権は民間業者が持っている。民間業者は10〜20年にわたって管理費を受け取り、建築費と利子を支払う。やり方によっては、民間業者が直接寄宿舎を運営したり、大学が民間業者に対し使用権を貸与したのち、貸与料を受ける。



寄宿舎費の半分以上が建築費と利子だって?

運営方法によって違いはあるが、結局民間業者は寄宿舎費を通して建築費と利子の返還を受ける。建設会社は寄宿舎を建て、事業利益を得て、民間業者の「大スポンサー」である金融会社は寄宿舎費を通して貸与していた金と利子を得る。金融会社と建設会社が寄宿舎費をなかよくわけてもって行くというやり方だ。

学生の立場からみればじっさい寄宿舎を運営するために必要な費用以外に建築費と利子をさらに負担するということになる。問題は寄宿舎費のうち、建築・利子にあてられる費用の占める比率が、運営費と同額かあるいはそれ以上だということだ。ある大学の場合、寄宿舎費の63パーセントに至る。建築費と利子を支払わなければ、寄宿舎費は半分ほどに減る。ここまでくれば、寄宿舎を運営するために建築費と利子を負担しているのか、建築費と利子を払うために寄宿舎を運営しているのか、こんがらがる。

追加負担金が高くなる理由は「クールな」寄宿舎を立てるために建築費がかかったということもあるが、それよりも利子負担が占める比重が大きい。住居問題に関するドキュメンタリーを製作している「親切な未分譲」のチームは、第三話「うちの大学の寄宿舎費55万ウォン」にて、民間資本寄宿舎建築費の高い利子が問題点だと指摘した。ここでいう「うちの大学」とは延世大学のSK国際学舎だ。SK国際学舎の建築費の利子率は、年利率4〜6パーセント水準であり(注:利子率は国債金利+1.4パーセントであり、国債金利の変動により5年ごとに再調整される)、約300億の建築費に対して20年間支出する利子率をすべてあわせると200億ウォンを上回る。おどろくべき事実は、全体の利子が実際の建築費の70パーセントに達するにも関わらず、SK国際学舎は、成功例として評価されるという点だ。建国大学のクールハウスの場合、資金が400億ウォンほどなのにもかかわらず、15年にわたり支払われる利子が370億ウォンに達する。まさに利子のおまけに建物が立てられたということだ。

民間資本寄宿舎の王とでもいうか、最近論議をおこしている西江大学の寄宿舎だ。西江大学の寄宿舎建築費の利子率は年間8,45パーセント。そのうえに10年間は利子のみを納付し、10年後から原資金を返していくという条件の下に毎年20億ウォン相当の資金が利子にのみ抜け出ていく。寄宿舎費も2人部屋で6ヶ月あたり200万ウォンを超え、最高価であることを自慢にしているほどだ。高い価格に負担を感じる学生は寄宿舎を忌避し、開館一年目の寄宿舎は半分しか学生が入らなかった。寄宿舎に学生を満員にできない場合、大学が民間業者に運営費を補償しなければならないため、低い入舎率は、学費が引き上げの要因としても作用する。

さる3月、西江大学の総学生会はこのような契約を通して銀行が行き過ぎた暴利を得ているとして公正取引委員会に民間業者を提訴した。公正取引委員会が契約が不公正であるという判決を出せば、民間業者は利子率を下げたり、これまで受け取ってきた金利の一部を返さなくてはならない。

民間資本寄宿舎の設立は2005年の大学設立運営規定が改定されたことにより可能になった。興味深い事実は、規定の改定が「経済活性化のための政府の総合投資計画」の一環としてなされたという点だ。教育部が親切にも建設景気と金融景気をよくするために大学の運営規定を変えてあげたということだ。じっさいに民間資本寄宿舎に資金を貸す「寄宿舎ファンド」は金融投資者たちにとっては高い受益率を保障する孝行息子的な商品だ(注:建国大学寄宿舎基金のファンドである「サヌン建大愛寄宿舎ファンド」は8.35パーセントの利率で不動産ファンド中では最高の受益率をはじき出し、西江大学寄宿舎基金ファンドである「西江愛ファンド」は20年間継続7.2パーセントの受益を保障している)。ファンドに投資するのは、おもに「余裕のある金」を持つ企業であるという点を思い出せば、疑問が生じる。よくない住居に暮らしている「88万ウォン世代」に、高い寄宿舎費を負担させて経済を活性化させないといけないほど、建設業、金融業の状況は大変なのだろうか?

「大学は建築費を出さずに寄宿舎を得て、建設会社は損をせず受益し、金融業界も損をせず利益を得れるわけだ。そして政府は経済指標上昇を狙う。ここにはどこにも学生はいなかった」(親切な未分譲 第三話から)

もちろん寄宿舎費が金融圏へ流れ出て行くあいだ、大学はただ手をつけずにいるわけではない。大学も建築費を出したり、民間業者に納付する賃貸料を「一部」負担する。建国大学のクールハウス寄宿舎の全体建築費の10分の1に至らない45億ウォンを建築費として負担し、延世大学SK国際学舎の場合は賃貸料のうち年間約5億ウォン程度を大学が負担する。問題は建築費の一部のみを支払う大学が寄宿舎の本当の「主人」であるということだ。



AさんはよくてBさんはダメなワケ

〜〜家を何部屋か所有しているAさんは商圏ビルの建物も一軒欲しい。しかし金は少しだけに抑えたい。不動産をよくしっているAさんは銀行から金を借りてきた。借りてきた金を建築会社にもって行き、商圏ビルを立ててくれと依頼した。建築会社はAさんの要求どおりに3階だてのビルを建ててあげた。1階には花屋とパン屋、2階には英語学院とクリーニング屋、3階にはピアノ教室と美容室が入店した。Aさんは毎月各店舗から家賃を受け取り、銀行から借りた金を返していく。数年がたち、借金をすべて返済したAさんは新しい建物の所有者となった。〜〜

大学の外の多くの建物は、Aさんが建物を得た形で立てられ、これは不動産持ちが財産を増やしていく代表的な方法だ。いずれにせよこのような方法がひろく使われていて、不法でなければなんでこれが問題になるのか問い返すかもしれない。しかし、同じ方法で病院を立てるとなれば問題になる。

〜〜Bさんは病院を運営している。新しい小児科病棟を建てたいBさんは金融業者を通して建物を立てることにした。金融業者から金を借りてきて、建築会社を通して病棟をたてた。Bさんは何年かかけて病院を運営しながら金を返した。もちろん借金返済にあてるために小児科病棟の病院費はほかの病院よりも高くするしかなかった〜〜

おなじ方法で病院をたてる場合、結果的に病院費があがる。Aさんがピアノ教室とクリーニング屋に要求した家賃を小児科病棟の患者に転嫁することになるからだ。しかし来院する人にとっては医療サービスが必要であるという点を考えるとき、病院費が高くなるということは不当だ。貧富に関係なく、だれでも健康である権利があり、だから韓国をはじめとする国家は医療保険制度を通して治療される権利を保障している。

病院と同様に、大学は教育機関として社会的な公共性と責任が与えられている。そのため、2005年以前には民間資本の学内流入を法的に禁止していたのだ。また法は大学が学生を通して利潤を得られないよう定めている。しかし大統領令を改定し、民間資本を誘致することによって、大学が教育すべき対象である学生から金を集めて不動産を呼びよせるわけだ。

法令が改正された当時、政府といくつかのメディアは資金が不足している大学でも建物を立てられるようになったと広報した。しかし実際には、梨花女子大学、延世大学高麗大学など、大学積立金順位が上位である大学も、われもといそいて民間資金寄宿舎を建てた。延世大学のSK国際学舎が完成した2010年、延世大学の累積建築積立金は2094億ウォンに達した。大学関係者は建築積立金が多額だったとしても、じっさいには各建物、目的ごとに資金が別々に積み立てられているため、予算を編成することは難しいと言いのがれた。しかし累積建築積立金は昨年度対比664億ウォンも増加したという点を考えれば、そうそう納得できる話ではない。

2010年、権ヨンジン国会議員が発表した資料によれば、同額の建築費で建てた建物だとしても、大学が事業費の30パーセントを最初から負担していれば、一学期あたりの寄宿舎費は約20万ウォン減少する。大学に対して積極的な寄宿舎予算拡充を要求しなけれはならないワケはここにある。



「寄宿舎費は第二の学費」

民間資本誘致によって立てられる場合、寄宿舎の質が上がるという主張もある。じっさいには多くの民間資本寄宿舎が各部屋にトイレとシャワーを備えていて、おおくは2人部屋と1人部屋でつくられているため、相対的に快適な施設だと自慢する。しかし西江大学の総学生会長である高ミヌさんは「学生たちが求めるのは高いホテル型の寄宿舎ではなく合理的な値段の寄宿舎」だと、民間資本寄宿舎が本来の寄宿舎の目的にあうのかと疑問をなげかけた。じっさいにあるアンケート調査によれば、通学が不可能な学生たちが住居地に選択するもっとも重要な条件は「家賃」だった。「住宅施設および設備」は3番目の要因に過ぎなかった。

親切な未分譲チームは「寄宿舎は高い金を出せる人のためにあるんじゃなくて、自炊部屋に住む金のない学生の教育権を保障するためにある」といい、必要な人に空間が行き渡っていないと指摘する。じっさいに多くの民間資本寄宿舎は需要が不足していて、空き部屋があったり、高級な施設を求める学生のための住居になってしまっている場合が多い。

家の需要はフレキシブルだ。専攻の教科書がどんなに高くても買わなくてはならないように、どれほど家賃が高くても寝る場所は必要なため、家賃が高くなったからといって、家を求める需要が減るわけではない。結局、寄宿舎費が高くても、学生は泣きながら寄宿舎費を出さなくてはならない。高ミヌさんは地方出身の学生に対して、家は絶対必要なもので、毎日のようにぶつかる問題であるため寄宿舎費は「第二の学費」だと強調した。

昨年11月発表された「延世大学大学発展案」によると新築される寄宿舎を民間資本誘致方式で進行するという。これと関連し、企画チームは、民間資本誘致方式は選択肢のひとつであって、国民住宅基金を使うなど、多様なやり方を考慮していると明らかにした。新しい寄宿舎が学生のための寄宿舎になるのか、「経済を活かす用」の寄宿舎になるのか、結末が気になるところである。